白山北部 冬瓜山、シリタカ山、笈ヶ岳 2010年5月3日

所要時間

 4:07 自然保護センター−4:32 野猿公園−−5:45 1250m峰−−7:06 冬瓜山−−7:31 シリタカ山−−7:58 県境稜線−−8:15 笈ヶ岳 9:11−−9:49 シリタカ山−−10:06 冬瓜山 10:34−−11:13 1250m峰−−11:44 野猿公園 11:49−−12:08 自然保護センター

概要
 ジライ谷左岸尾根を登る。今の時代はここが笈ヶ岳へのメインルートで、大型連休前後に地面が出ている区間については夏道同等の濃い踏跡ができており、そのうちに冬瓜山までなら夏道ができるのではなかろうか。ジライ谷左岸尾根は標高1200mまではえらく急だがこの間は雪は皆無。今年は4月気温が低くて雪解けが遅く例年より残雪が多かったはずであるが、それでも1200mでは雪が無いのだから記録的に残雪が多くない限りは急斜面で雪が出てくることはないと思われる。

 アイゼン、ピッケルの出番があるとすれば県境稜線手前であるが、ジライ谷左岸尾根日帰りで考えるとここを通過するのは充分日が高くなり気温が上がった時間帯のはずで、おそらくトレースが無い状態でもキックステップで問題なし。一度ステップが切れてしまえばアイゼン、ピッケルの出番は完全に無い。残雪期にほとんど人が入らないマイナーな山を登っている人なら技術的に問題になる箇所はなく、単純に体力勝負の山。

 笈ヶ岳は200名山のうち数少ない登山道が無い山として有名であり、以前から残雪期に登られることが多かった。調べたことはないがたぶん白山スーパー林道が県境を越える辺りから県境稜線を往復だろうか。まあ、普通に考えて1泊は確実に必要なルートだろう。ところがネットで検索をかけると「ジライ谷」から登っている記事を多数発見した。中身を見たのは数件だが地図が掲載されたものはなく、具体的にどんなルートなのかイマイチはっきりしなかったが、これだけネット上で山行記録を発見できるのだから相当な数の登山者が登っているのは間違い無く、明瞭な踏み跡があってもおかしくないだろう。

 地形図を見るとジライ谷周囲の南斜面はどこも猛烈に傾斜が急で、私の度胸では雪が付いていたら恐ろしくて登れないのは確実だ。雪の経験者でも滑ったら止めるのはまず不可能な傾斜だろう。しかし、残雪期にこれだけ多く登られるということは、その時期にはヤバい場所の雪は消えているはずである。地図を見る限りでは常識的にはジライ谷左岸尾根にルートがあると思われ、傾斜が緩み始める標高1000mくらいまでは雪は無いだろう。この尾根は南斜面にあるし、傾斜がきついところの方が早く雪が消える傾向のため、やっぱり雪が消えている可能性は高いだろう。

 毛猛山、桧岳を登り終え、移動と休養に1日使い中宮温泉近くの自然保護センター駐車場に到着した。午後2時過ぎだったが続々と登山者が降りてくる。その姿を見るとピッケルやアイゼンを持った人はほぼ皆無で、客層は完全に中高年オンリーで若者の姿は無かった。これを見る限りは笈ヶ岳は気合が必要な山ではないように思えた。少なくとも私が心配する急斜面の残雪の可能性はありえないだろう。

 ここの標高は約650m、笈ヶ岳山頂は約1800mで、途中に冬瓜山、シリタカ山を越えるので行きの累積標高差としては1400m前後だろうから、私の足なら所要時間としては4時間程度だろう。日帰り楽勝圏内であるが、できるだけ雪が締まった早朝に距離を稼いだほうが得策なので早出に越したことはなく、ジライ谷に到着して尾根に取り付く時に明るくなる程度に出ることにした。ただ、尾根取り付きで充分明るくなっているか不安があり、今日のうちに取り付き位置だけ確認することにした。尾根に取り付いてしまえばあとは尾根を登るだけでいいので多少暗くてもいいだろう。

遊歩道入口(帰りに撮影) トンネル(帰りに撮影)
蛇谷手前で通行止めの標識あり(一般観光客向け)(帰りに撮影) 蛇谷(帰りに撮影)
コンクリート管のトンネル(帰りに撮影) 遊歩道は続く(帰りに撮影)
野猿公園の東屋(帰りに撮影) ジライ谷。橋は無く適当に渡渉する(帰りに撮影)

 自然保護センター裏手の遊歩道入り口から上り始め、よく整備された遊歩道を上がると短いトンネルを抜けて蛇谷に下るが、そこで通行止めの看板が下がっていた。しかしその脇には明瞭な踏跡ができており、かなり多くの登山者が通過したことが分かる。これなら笈ヶ岳までず〜っと踏み跡やトレールが付いているのは間違いないだろう。一面のデブリに覆われた蛇谷を越え、所々取り外されたままの橋を通過し(特に橋が必要な場所でもなかった)ジライ谷の野猿公園に到着した。下山してくる登山者がたくさんおり、すぐに取り付きがどこなのか分かって目的達成。ジライ谷には橋はかかっていないが飛び石で簡単に渡れる程度の小さな沢であったが、下ってきた中高年にとっては微妙な飛び石の位置関係らしくまごついている人で渋滞している。朝は気温が低くて水量はもっと少なかっただろうから驚くのも当然か。ガイドらしい男性が東屋から長いすを持ち出して沢に設置し、じっちゃんばっちゃん連中を渡らせていた。翌日は椅子はなくなっていたので使用後は元に戻したようだ。これで明日の心配事が解消し、駐車場に戻って毛猛山の記録を途中まで付けて寝た。

 翌朝、3時に起床し4時出発。まだ真っ暗だがもう遊歩道にはいくつもの光が揺れていた。さて、ここに戻ってくるのは何時だろうか。昨日歩いた道なのでジライ谷までは何の問題もなく、ジライ谷も簡単に渡渉して左岸に出た。この頃になるとだいぶ明るくなって周囲の地形が見えるようになり、尾根に乗ればルートを外すことはないだろう。

ジライ谷左岸に渡る(帰りに撮影) ジライ谷左岸を登る(帰りに撮影)

 さて、ここから先が本番だ。僅かに雪が残った左岸の浅い谷地形を上がって左の斜面に取り付くが、これがまた夏道と形容していいような明瞭な道が存在した。踏跡程度かと想像していたのだが、これはエアリアマップの赤実線と比較しても遜色ないレベルだった。整備してこうなったのか、それとも利用者数の多さで自然にこうなったのかは知らないが、この分では本当に夏道ができてしまうかもしれない。

 私のすぐ目の前にはジモティーの男性が先行し、そこそこのスピードで登っていくので無理に追い越すことはせず気長に付いていくことにした。この人は話し好きのようで歩きながら良くしゃべる。しゃべれる程度のペースで歩いているということは本人にとって適度なペースのはずで、こちらにとっては少々物足りないペースであるが毛猛山から中1日という体力面を考えるとちょうどいい程度かもしれない。気温は10℃もあり、普通に歩いたら汗だくになるはずだがゆっくりペースなのでほとんど汗をかかずに快適だ。

尾根上は明瞭な道が付いている ずっとこんな感じの道が続く
標高1000m強にある大岩 フィックスロープもある(いらないけど)

 尾根の傾斜は確かに急であるが、登山道は一直線に登っていくわけではなく左右に方向を変えながらうまく付けられていた。急な場所にはトラロープが下がっているが岩や木がホールドになるのでロープの出番はなかった。標高1000mを少し越えたところで大岩が登場、尾根上で邪魔しているわけではなく左側から普通に横を通っていけていい目印になる。

1250m峰 1250m峰先の尾根は潅木が少しウザい
1250m峰から見た冬瓜山、シリタカ山

 標高1250mでようやく最初のピークに到着し、初めて冬瓜山の姿が見え、そこに続く尾根の様子も見て取れた。これまでの急な登りは終わってなだらかな尾根が続いていた。1271mにかけての尾根は今までの尾根とは違って細くなったせいか、根曲がり潅木が少々邪魔をしていた。多少は切ったようだが完璧に整備されているわけではない。まあ、誰か個人でできる範囲でやってくれた程度だろうから贅沢は言えない。潅木の枝ばかりは登山者が増えて踏跡がしっかりしても無くなることはないだろう。

標高約1400mで残雪にありつく 冬瓜山西尾根に出る

 標高1400m強で念願の残雪が登場、植生は背の高いブナ林になって邪魔者はなくなり歩きやすくなる。やっぱり今の時期はこれでなくちゃ。トレースは明瞭で夜でも歩けそうだ。冬瓜山西尾根への合流地点には目印があるが、ガスって視界が無いときは直進しないよう要注意箇所だ。

しばし残雪の尾根を歩く 標高が上がると残雪が減ってくる
冬瓜山西尾根から見た三方崩山、奥三方岳
冬瓜山西尾根から見た白山(クリックで拡大)

 冬瓜山西尾根に乗り、尾根南側に残った雪の上を歩く。どうやらこの時期のこの付近は稜線上は雪が消えて薮が出ているらしいが南斜面に雪が残っているようで、尾根上には踏み跡は無くトレースは雪の上だ。北側の緩斜面には3つのテントが張ってあり、住人は笈ヶ岳に向かっている最中だろう。ここから稜線を巻いて冬瓜山、シリタカ山をパスすることも可能らしいが、こちらは冬瓜山、シリタカ山の山頂を踏むのも目的なので稜線をそのまま進んだ。

残雪を離れて尾根上の踏跡に移る フィックスロープまである

 南斜面の傾斜がきつくなり残雪が途切れ途切れになるとトレースは稜線に這い上がり、明瞭な夏道が現れた。たぶん例年のこの時期になると南斜面の雪が使えなくなって稜線に出る必要があるのだろう。道が無ければ結構な薮だが、ここも登山道と表現したくなるような明瞭さだ。これなら夜間ヘッドライトでも歩けるだろう。トップを行く男性のペースはますます落ちてくるが先を譲る気配は無く、こちらもさほど先を急ぐ必要も無く、明日以降の山を考えて体力温存を優先だ。

冬瓜山山頂 冬瓜山から見た笈ヶ岳

 やがて頭上の樹林が開けると露岩のピークに飛び出して展望が開けた。ここから初めてすっきりと笈ヶ岳の姿が見えた。最高点とその手前にピークがあるが、どちらも西側から見ているせいか雪がない。たぶん稜線東側にはたっぷりと雪が残って薮漕ぎは必要ないだろう。冬瓜山の山頂はその先にあり、小規模なリッジ状の露岩がてっぺんだった。露岩だからここも展望がよく、あまり広くはないが休憩場所にちょうどいい。先行者と後続の男性(ずっと後ろを付いてきたのでそれなりに足が強かったようだ)はここで休憩に入ったが、こちらはこれまでいつものペースより遅く体力が温存されてまだまだ行ける状態だったのでそのまま先に進んだ。ちなみにここまで3時間強だった。

シリタカ山へと向かう 気持ちいい雪稜が続く
シリタカ山の登り 冬瓜山を振り返る
もうすぐシリタカ山
シリタカ山から見た白山 シリタカ山から見た冬瓜山
シリタカ山から見た笈ヶ岳

 山頂を少し下ると広くなだらかなブナ林の気持ちいい尾根に変貌、ブナの密度が低くて展望が開けて楽しい稜線だ。天気は申し分なく麦藁帽子が大いに役立った。シリタカ山までそんな稜線が続き、最後はシラビソの低木に変貌、そしてほとんど木が見えなくなって広い雪原のシリタカ山山頂に到着、木も無い平原で標識も無いが足跡は無数にある。この先の鞍部を見ると2人の登山者が登りにかかっている姿が見えた。そこまで追いつくかな?

シリタカ山北斜面。中央付近にパーティーあり 巻き道トレース上に点々と人が見える
鞍部手前から見た笈ヶ岳
シリタカ山を振り返る 鞍部にあったツェルト

 鞍部へ下り始めると左手から数人のパーティーがやってくるのが見えた。冬瓜山をシリタカ山を北から巻くルートを通ってきたのだろう。幕営組だろうか。鞍部手前で竹ざおが何本か立っていて不思議に思ったが、よく見ると雪庇の南側を整地してツェルトが張ってあった。なるほど、これなら北から西よりの風は完全にシャットダウンできるな。

鞍部から登りにかかる 尾根を登らず雪がつながった左を巻く

 鞍部から登りにかかり、トレースは地面が出てしまっている急な尾根を登らずにその左をトラバースしつつ登っているのが見えた。そこそこ傾斜がありそうでノーアイゼンのまま行けるだろうか。まあ、ピッケルがあるので凍ってさえいなければどうにでもなるだろうけど。それにこのトレースの濃さでは完璧にステップが切れているだろうな。案の定、トラバースに入ってもアイゼンもピッケルも出番なしで、登山靴のまま普通に登ることができるくらいのステップができていたし、もし滑っても下部は途中で止まれそうな斜度で恐怖感もほとんど感じなかった。なるほど、昨日の登山者のほとんどがピッケルを持っていなかったのも頷ける。それにこの気温の高さではアイゼンを使うような締まった雪は期待できないしな。

トラバースのトレースも明瞭 まもなく県境稜線
県境稜線から南を見る 前笈に登る。前を行くのが本日日帰りの先頭

 少し笹が顔を出した地帯を突破する箇所もあったがごく短距離で、やがて傾斜が緩んで県境稜線に乗った。県境稜線から縦走してきたトレースも結構多い。ほとんど立ち木がなくなった広い稜線を気持ちよく闊歩し、先行者2名を追い越して豊富に残った雪を踏みしめて前笈へ登れば山頂は目の前だ。前笈はてっぺんも雪に覆われているが笈ヶ岳のてっぺんは雪が消えて笹に覆われているようだ。

前笈から見た笈ヶ岳 笈ヶ岳最後の登り
笈ヶ岳直下から見たシリタカ山、冬瓜山
無人の笈ヶ岳山頂。雪が消えていた 大笠山へと向かう尾根には1人の足跡が延々とあった
笈ヶ岳から見たパノラマ展望(クリックで拡大)
笈ヶ岳から見た白山(クリックで拡大)

 緩やかに下って最後は雪が消えた山頂直下の低い笹を踏跡に従って越えれ笈ヶ岳山頂到着だった。意外にも無人で、まさか本日初めてのお客ということはないだろうな?? ジライ谷左岸尾根経由では今日初めての登山者に間違いないと思うが。山頂一帯は完全に雪が消えて三角点も顔を出していたし、山頂標識も出ていた。こんな道が無い山にしては立派な山頂標識で、個人で立てたのか行政が立てたものなのか。すぐ北側には大笠山とそれに続く稜線。まだ稜線上の雪庇はズタズタになっておらず、薮を漕がなくても容易にここまで来れそうだ。あとで気づいたが大笠山方面には1人のトレースがついていた。今の時代となっては一番手軽に登れるジライ谷左岸尾根コースが完全に主役だ。今日は空気の透明度が悪く、東に微かに白い山並みが見えたが北アのどこなのか全く判別不能だった。常識的には一番近い立山だと思われるが。

山頂が賑わってきた 下山を始めた人もいた

 前笈直下で追い越した夫婦が2番手と3番手で、次に若い単独男性、そして冬瓜山まで私の後ろを付いてきた単独男性がやってきた。その後は続々と上がってきて山頂は賑やかになった。時間はたっぷりとあったので1時間近く山頂に滞在することができた。

トレースを外したが雪渓を下って合流 登りでは冬瓜山までピタリと後を付いてきた男性

 下山も同一コースを取るが、県境稜線を離れてトラバースして下るところでルートを誤り、本来よりもひとつ南の雪渓を下ってトレースに合流した。まだ上ってくる人の姿が見えるが数は少ない。シリタカ山を越えた頃、腹が減ったので冬瓜山で少々腹ごしらえ。充電完了であとは一気に下るだけ。稜線上は雪がたっぷりで標高もあって涼しかったが下って標高が下がるに従って徐々に気温は上昇し、ジライ谷に出る頃には汗だくになっていた。温泉が待っているがその前にジライ谷を渡ってから水浴びを楽しんでさっぱりしておく。水量は朝と大差は無いようだった。

 駐車場に到着したのは12時を少し回った時刻で思ったより早かった。ジライ谷で汗をぬぐっておいたので体はさっぱりしており、窓を開け放った車の中でしばしお昼寝。その後、温泉と買い物、そして洗濯へと向かった。

 

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